華岡青洲の妻 1967

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華岡青洲の妻 1967

監督: 増村保造
原作: 有吉佐和子
出演: 市川雷蔵, 若尾文子, 高峰秀子, 渡辺美佐子, 伊藤雄之助,

この話はかなり有名で何度もテレビ化もされている。ただあまりストーリーとしては記憶に残っていない。それにこの映画の存在はあまり知らなかった。

この原作の良さは、加恵が姑の於継を理想の女性、妻だと慕って華岡家に嫁いだ後、雲平の帰還後に、於継の加恵に対する強い嫉妬を感じ、二人の関係が嫁と姑の争いに変わっていくところである。そして医師雲平を愛する母と妻の戦いは、自分の命をかけて全身麻酔の実験台に進んで申し出るほどの壮絶な妻と姑の戦いになって行く。

映画は、妻と姑との緊迫感が二人の女性の美しさを背景に素晴らしい緊張感で描かれている。とくに若尾文子の凛とした妻の姿が素晴らしい。
失明しながらも加恵は妻としての義務を果たす。姑の於継は、それを知って自分がわざわざお嫁にと願ったのに、こんな体にしてしまってさめざめと泣くのであるが、それは自分が嫁、姑争いに負けたからであるのが、見ているものにもわかるところが、この映画のすごさでもある。
そしてこの映画は、若尾文子と高峰秀子の素晴らしい演技によって、生き生きとその戦いが描かれている。また冷静にその間にたつ雲平、華岡青洲を演じた市川雷蔵も素晴らしい。
市川雷蔵の演技も光っている。真面目で誠実な医師であり、妻に対する愛情も、母に対する愛情にも溢れた家庭人を演じている。

有吉佐和子の素晴らしいストーリーテラーである。昔の時代なら、家長の望み、夢をかなえるために、家のものが全て協力するのが当たり前だった。おそらく、嫁、姑、妹たちも喜んで人体実験を申し出たと思われる。人体実験を申し出て、盲目となった妻の美談を、裏には嫁と姑の争いを軸に、夫の愛情を奪いあう動機があった思わせるところが現代的である。
また死んでいく清州の妹小陸に嫁がなくて幸せだったと言わせる。なぜなら、加恵と母の嫁姑の戦いを見て、苦労している加恵を見て嫁ぐよりここで暮らしていたのが幸せだったと言わせ、そして二人の関係を知りながら利用しているかのような兄、雲平を批判する。これは、この映画や小説を熱心に読んた嫁、姑の人達に素晴らしいカタルシスを与えるところも作者としての面目躍如だろう。


映画の中で取り上げられたチョウセンアサガオは、トロパンアルカロイドであり、ベラドンナと同じようにアトロピンを含んでいるため副交感神経を麻痺させる。経口後30分程度で口渇が発現し,体のふらつき、幻覚、妄想、悪寒など覚醒剤と似た症状が現れる。

青洲が完成させた全身麻酔薬、通仙散(別名、麻沸散-まふつさん)の配合は、曼陀羅華(まんだらげ)の実(チョウセンアサガオ)八分、草烏頭(そううず、トリカブト)二分、白芷(びゃくし)二分、当帰二分、川芎(せんきゅう)二分であった。これらを細かく砕き、煎じて滓を除いたものを暖かいうちに飲むと、2〜4時間で効果が現れた。加恵が盲目になった原因は、トリカブトの配合だろうか?
他にも彼の考案した処方で現在も使われているものに十味敗毒湯、中黄膏、紫雲膏などがある。

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