A Tale of Two Cities Charles Dickens 二都物語 ディケンズ 1859

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A Tale of Two Cities Charles Dickens 二都物語 ディケンズ
1859年刊

これは、audiobookで読み始めたが、とても理解できず原文と一緒に進めることになった。このディケンズの小説は文語体で書かれていて、単語が難しいばかりでなく、文体が整っていなくて、一文一文を理解するのにも時間がかかった。最後には日本語の訳にもお世話になったのだが、日本語訳も正確なのがなくてこまった。これは本当に読み終えるのに時間がかかった小説であったが、ディケンズの良さがわかり、最後にはディケンズのファンになってしまった。

1775年11月から始まる。フランス革命前のイギリスとフランスから始まる物語である。二都物語の二都は、ロンドンとパリである。フランスに関しては、1789年7月14日バスティーユ牢獄に端を発するフランス革命の勃発から、1791年反革命派狩りが始まり九月虐殺、次第にジャコバン派が恐怖政治を敷くようになった時期を描いている。
フランス革命の発端を、ディケンズらしい解釈で、分析的にまた生き生きと描いている。フランス革命から、チャールズが巻き込まれるところもしっかりとした筋立てである。彼が、フランスに戻り、そして捕まりラフォースの牢獄に入れられて、多くの牢獄に入っている人たちと出会うところもディケンズの面目躍如である。素晴らしい演出であるる。フランス革命中の虐殺が生々しく描かれているのも素晴らしい。そしてギロチンに対する描写もすばらしい。

ディケンズのフランス革命に対する考え方がはっきりと出ている。フランス革命のこうした一面は、多くは語られていない。特にイギリス人から見たフランス革命の印象ではあるのだが。それは中立ではあるが、何方かと言えば、アンチフランス革命の立場もあるような印象を受ける。実際にフランス人はこの作品にたいしてどう思っているのだろうか。これに対する資料があると興味深いのであるが。最後最後に彼のフランス革命に対する考えが書かれている。


最初に読み始めて感じたストーリーに関する疑問は、すべて最後までに明らかになる。この筋立ての完成度がすごい。最初に主人公と思っていた人たちが徐々に小さくなり、シドニー・カートンの存在はこの小説の中でどんどんと大きくなる。この意外性が読むものを惹き付ける。ディケンズの描く小説は脇役達が本当にうまくストーリーの中で生きている。
この小説はドンでがえしという展開ではないが、読者が最後を予測できるように書かれているのだが、その展開であってほしくないと思わせながら読者にどんどん読ませてしまう、そんな結末への持って行き方が巧みなのである。
ルーシーとチャールズの恋愛の流れを詳細に描いていないところがまたディケンズらしいと言っていいのかもしれない。恋愛部分については彼の興味ではなかったのだろう。
ドクターマネットの記憶喪失、性格変化が、長年の牢獄生活による精神的なストレスによって起こると記述されいてるのが面白い。フランスでのドクター・マネットとルシーの立場の逆転は、またこのストーリーの素晴らしい筋立てに納得してしまう。そしてまた起こる出来事にもなるほどと思わせる。
ジェリー・クランチャーのサイドビジネスである墓の盗掘は、その当時のイギリスの風俗を生き生きと描写していて非常に面白い。最後にミス・プロスに誓うところは思わず笑えてしまう。

この小説に出てくるキャラクターにスパイがある。当然当時からスパイのような役割をするものがいることは日本でもあったからそうなのであろう。しかしイギリスのスパイとしてこの時代の小説の中に取り上げているのがさすがというところか。

小説の中にワインショップの章がある。その頃はワインは樽で買っていたのであろう。運び入れる途中にワインの樽が落ちて、通りを転がり割れてしまった。通りがかり人や住人が我先に通りの石畳の周りにたまったワインを手ですくっては飲む光景が描かれている。これはフランス革命の前の、暴動が最初に起こったサン・アントワンの町での情景である。ここには、革命前のあやしげの雰囲気が、細かく入念にディケンズのタッチで描かれている。赤ワインが血のイメージであり、ここの住人が貪るように飲むのシーンがやがて起こることを案じてしている。このワインショップでワインを飲むシーンが物語の重要な鍵をもつ。

ジャーヴィス・ロリー
長年テンプル銀行につとめる、まじめな銀行員でずっと独り身である。ドクターマネットと懇意であり、長年家族ぐるみで親しい。真面目なビジネスマンである。


ジェリー・クランチャー
テンプル銀行の連絡員で、他にすべての雑用をまかされている。次第に彼のサイドビジネスが明らかになる。彼は、この時代の下層階級であるが、その時代の風俗を非常に良く象徴している。

彼の妻がどうしてお祈りをするのか、どうしてそれを彼が毛嫌いする理由が次第に明らかになる。そして彼の裏の商売も。しかし彼が正直な商売人と自分のことを言うのはなぜだろうか。これも後半になって彼自身の言葉から、医師との比較で明かされる。

彼の子供が、墓堀の現場を見て、恐ろしくなって家に逃げ帰るのだが、そのときに後ろから誰かがつけてくるような幻想に取り付かれるのは、誰しも子供の頃によく経験したものである。


ルーシー
ドクターマネットの娘、死んでいたと思っていた父がフランスにいると聞き、ジャーヴィス・ロリー氏とともにフランスに渡る。

ドクターマネット
長い間牢獄に閉じ込められていたが、
ルーシーに介抱され、次第に過去の記憶がよみがえり、自分に帰る。
いったん正常な状態に戻ったが、ルシーの結婚と一時的な喪失で、昔の自分に戻ってしまう。そしてまた回復するのが。ロリー氏との会話が非常に興味深い。非常に強いストレスによって人格の喪失をきたした人間が、回復に、再度同じ状態に陥ってしまう理由を探るところは、この小説の面白いところである。

チャールズ・ダーネイ
彼はこの小説の中心にいるのだが、彼が小説の中心の題材ではないのが徐々に明らかになる。最初のイギリスでの裁判から不吉な予感、そして細かなストーリー設定があったことが広範になって気がつく。しかし彼がイギリスでスパイの疑いをかけられた理由はあまりはっきりしないのだが。

印象的なシーンは、
ラフォースの牢獄に閉じ込められ、そこで出会った老若男女の紳士淑女たちが、幽霊のように思えたところの描き方が素晴らしい。彼らは、ダーネイが、独房に入れられるのに同情するが、彼らの方が先に死の淵においやられたのである。

シドニー・カートン
彼が、なにかいじらしい。どうしてルーシーに恋をしてしまうのか。悲恋の始まりを予感させる。
物語の最終的な顛末は、最初のチャールズ・ダーネイの裁判のときから何かこの展開に隠されているものがあるんではないかと思い。そしてシドニーのルシーへの思いを語った時から最後の展開が見えてくる。
この物語の本当の主人公はジャーヴィス・ロリーとシドニー・カートンではないだろうか。二人の会話が後半に出てくるのだが、ロリー氏に、シドニーが訪ねる内容が悲しい。

78歳になったロリー氏に、最近は、小さい頃のことを思い出しますかと聞かれると? 20年前はそうではなかったが、最近はよく思い出すよ。人生は円みたいなもので、終わりが近づくと人生の始まりの頃を良く思い出す。
すると、シドニーがそうですね。と応える。
ロリー氏が、君はまだ若いのにと言うと。僕には年は関係ありません。と話す。

最後の最後に彼は、裁縫娘に出会うのだが、彼の良さと潔さが染みわたるシーンである。

それにしてもこのシドニー・カートンは誰がモデルなんだろうかと思ってしまう。彼らの性格、優秀さ、そして潔さは、小説のキャラクターとして非常に面白い。


エルネスト・ドファルジュ、テレーズ・ドファルジュ
酒場を経営する夫婦
フランス革命の発端に寄与している。ワイン酒場を経営している。
ドクターマネットに以前は使えていて、その後ドクターマネットを釈放後かくまっていた。彼らの役割の展開が実に素晴らしい。こういうストーリーの展開が昔からあったなんて驚きである。特に妻の異様な態度そして冷徹さの理由が最後になってわかる。なるほどである。

ミス・プロス
ルーシーの侍女で、いつもルーシーを守っている。容貌は良くないがまっすぐな心を持つ。最初は重要な人物ではないが、後半に重要な役割が待っている。善と悪の戦いに巻き込まれる。


佐々木直次郎訳が、青空文庫からでているが、上巻のみである。これは、1951年でかなり古いのだが、格調がある。日本語も難解である。

本多顕彰訳が、iBookにある。これは角川文庫。1966だが、佐々木直次郎の訳をふまえて作られたと思えるのだが、それでもまだまだ、読みづらいし釈然としない文章も多数見受けられる。
例えばroomに対する訳だが、これは、部屋とその部屋にいる人をディケンズは懸けていると思われるが、佐々木直次郎の方が正しい。それに佐々木直次郎をまねて同じように間違えている箇所も見受けられる。
文章の訳がわざと飛んでいるところもある。ただ中盤から誤訳も少なくなりなかなかしっかりした翻訳だと感心するところが多数あった。

それにしてもディケンズの仮定法を使った文章が非常に多く出て来てこれほどまでに、自分の英語力がなかったかと実感できた。そういう意味でも、作品の素晴らしさだけではなくもう少しディケンズの作品を読みたいと思えた。

中野好夫訳『二都物語』全2巻(新潮文庫、1967)や、田辺洋子、松本恵子の訳本の方が面白いのかもしれない。

ディケンズ・フェロウシップと言うのがあるのを知らなかった。
http://www.dickens.jp

もう一つは、Discovering Dickens である。http://dickens.stanford.edu/dickens/index.html

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