みづうみ 川端康成 1955

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みづうみみづうみ 川端康成 1955

ストーカーの話である。文体が美しいのは当然であるが、今回はストーリーに注目したい。主人公の銀平はただの観察者でなく、観察者を突き詰めたストーカーであり、追いかけた女性にも声をかける男である。そして悪知恵が働く。
現代仮名遣いでは『みずうみ』表記だが、原題はみづうみである。どうしてなんだろう。この理由はわからない。

作品は、ストーリーだけではなく銀平の中にある意識、過去の思い出、現実、そして幻想から妄想にまで広がる意識が描かれている。

銀平が高校教師だった頃に初めて後をつけた教え子・玉木久子のことや、母方の従姉・やよいへの少年時代の初恋を回想しながらストーリーが進む展開である。
猿のような甲の皮が厚い醜い足を持っている銀平。これが彼の自分自身に対するコンプレックスである。度々このことが記述される。特に劣等感を感じる時にはこの事が思い出される。

みづうみと作品の中にでてくる水虫の音が同じようにひびくので、すこし笑いながら読んだ。

銀平は町枝に声をかけたが、少女は何も答えず相手にしなかった。少女のその美しい目の黒いみずうみに裸で泳ぎたいという奇妙な憧憬と絶望を銀平は覚えた。これがまた銀平の異常さだが、これが美しい文章で描かれるとなぜか不思議なトリックの中に落ちてしまいそうである。
単行本刊行の時に、連載第11回の後半と最終回の第12回の全文が切り捨てられたため、冒頭部の時空間に戻っていく円環構造が崩れ、未完のまま放置された作品となっているそうだが、もう連載第11回の後半と最終回の第12回が読めないので、どういう展開にしたかったのか、そしてどう修正したかったのかわからない。

戦時中に自分と関係した娼婦が産んだ捨て子の赤ん坊の幽霊や銀平の父の死の秘密などが謎のままである。本当はどこかにつながっていきそうなのだが。

それにしてもストーカーを肯定するような話なので、今の状況にはそぐわないのだろう。描かれているのは、当然犯罪スレスレでもあるのだが、今では犯罪だろう。後をつけたいと思う女性は、その女性に何か魔性の魅力があること、そして女性が後をつけられいると言うことで、後をつけている男のことをまた意識するという、ストーカーからは、自分を肯定するような描写もあり、確かに文学なのだが、今の世相にはそぐわないのかも。

軽井沢のトルコ風呂が描かれているが、こんなんだったのだと驚くような感覚になる。最初はセックスをする場所ではなかったんだと感慨深く読んだ。

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玉木久子 銀平の元教え子。銀平がはじめて後をつけた女。久子の元の屋敷の塀の中で密会する。銀平が教師の職を失った原因。

やよい 銀平の従姉(母の兄の娘)。銀平よりも2歳年上。12、3歳の頃の銀平の初恋。湖のほとりを2人でよく歩いた。今は戦争未亡人となっている。

水木宮子 元は良家の娘だったが敗戦で家の財産がなくなり、金持の有田老人の愛人をして暮らしている。彼女もいろんな男性からつけられる女性。銀平に後をつけられ、ハンドバッグで追い払い、それを落として逃げる。

町枝 15歳。水野の恋人。どこか愁いがある清らかな少女。色白で濡れたような美しい黒い目を持ち、その美しい目の中の黒いみずうみに裸で泳ぎたいという奇妙な憧憬と絶望を銀平に覚えさせる。

湯女 軽井沢のトルコ風呂の湯女。銀平には天女のようなきれいな声を持った女性。

ゴム長靴をはいた女 40歳前くらい。日焼けした顔で、薄よごれた身なりの醜い女。街娼。