Life of Pi ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 2012

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Life of Pi ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 2012

原作:ヤン・マーテル
監督: アン・リー
出演: スラージ・シャルマ, イルファン・カーン, アディル・フセイン, タブー, レイフ・スポール
第85回アカデミー賞 監督賞、作曲賞、撮影賞、視覚効果賞


この映画はストーリー、映像美が素晴らしく一気に最後まで見てしまった。ただ考えさせる内容で、すぐにまた見直してみたいと思わせる映画でもある。

まずこの映画の映像美が素晴らしい。
特に動物、魚などの描き方がうっとりするような美しさで描かれている。漫画のヴィシュヌの口から宇宙が広がるイメージに最初にびっくりする。船が沈む所も素晴らしい映像美である。海の中にまだ灯りが灯っている船が沈んでいくところが悲しく美しい。船の名前Tsimtsumは日本語でなくてヘブライ語である。
ボートを上から俯瞰した画像が時々出来て、海の生命の美しさを描いている。
幻想的な夜光虫の漂う夜の海に突然クジラがジャンプする、トビウオの大群、大きな烏賊がとらえた魚が、動物達に分裂するイメージは見ている者の想像力を刺激する。ミーアキャットが住むヴィシュヌ神の島も幻想的である。
ボートの上での虎とパイのシーンのほとんどがCGで描かれているのが驚きである。海の中を虎が泳ぐシーンがあるが,あそこは本物の虎を使っている。虎の顔が少し大きめで誇張しているんだろう。素晴らしいCGの技術である。
のCGも素晴らしい。
そう言えばプール好きな叔父さんもCGで姿デフォルメされている。
これは3Dで見た方がずっと良かった映画だろう。


展開は、虎と漂流するストーリーを作るために念入りに設定された前提がある。
インド人のパイはプールの名前(ピシン モリター )がつくほど泳ぎを訓練されている。またいろいろな宗教との出会いは、漂流中に何を信じて生きるかの前提だろう。
リチャード・パーカーとの出会いは、動物の獰猛さをパイに教える。
リチャード・パーカーという名前のベンガル虎。こんな人の名前がついているのは珍しいと思ったが、これにも意味があった。 エドガー・アラン・ポーの冒険小説である、ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語(1838)では、リチャード・パーカーは、沈没船で助かった船員の一人で、他の3人に殺され食われてしまう。
また実際に1884年にヨット、ミニョネット号事件が起こる。ミニョネット号が沈み、助かった4人は、最後に一人殺さないと食料が確保できない。そのためキャビンボーイのリチャード・パーカーは船長達に殺されてしまう。その後三人は助かり、R v Dudley and Stephens criminal caseという裁判になる。この時キャビンボーイに使われた名前リチャード・パーカーは、匿名としてポーの小説の名前リチャード・パーカーが用いられた可能性がある。それにしてもリチャード・パーカーは海の遭難時に食べられた人の名前である。

ということは漂流の設定があべこべなのである。リチャード・パーカーは、人間を食べようとする獰猛な虎であるのに、逆にパイはヴェジタリアンで、肉を食べないのである。
救命ボートにはパイ以外は人間でなくて動物達が乗る。オラウータン、シマウマ、ハイエナ、そしてベンガル虎のリチャード・パーカーが助かる。
ハイエナは、シマウマ、オラウータンを殺し、虎のリチャード・パーカーは最後にすべてを食べている。残されたヴェジタリアンのパイと獰猛な肉食のベンガル虎のリチャード・パーカーという設定がユニークなのである。
ヴェジタリアンであるパイが魚を殺してごめんと叫ぶ。なぜか色のついた魚はリチャード・パーカーに与えて、マグロは食べた。
パイにとって、227日も救命ボートの上で一生に暮らした獰猛な虎のリチャード・パーカーは、次第に生きる望みをもたらす同胞になっていた。かれは海に飛び込んだリチャード・パーカーを助け上げたりする。そして次第に、パイは心を通じ合わせることが出来たように思った。リチャード・パーカーの頭を抱えてなでるシーンなどは、長い漂流生活の中でリチャード・パーカーだけが、会話できる友だったし、生きる勇気を与えてくれたのである。
しかしリチャード・パーカーは、メキシコの海岸でパイを振り返らずに去って行く。

虎と生活した話を信じない日本人に、代わりに人間が殺し合う話をした。クックがハイエナ、オラウンターが母、シマウマが食堂で話しかけた船員と。この意味は何だろう。
宗教は、自分を救えるのだろうか。
何故彼は虎を殺さなかったのか、なぜ虎は彼を殺さなかったのか。 考えれば,考えるほど哲学的になって行く。映像美やストーリーの面白さだけではない内容の重さが、この映画の魅力である。

アン・リー監督は、ブロークバック・マウンテンとこの作品で監督賞をもらっている。グリーン・デスティニーでは、アカデミー外国語映画賞を取っている台湾出身の監督。


ミーアキャットが住む人食い島について

不思議な島は伝説にある。確か何かの漫画、鬼太郎?で読んだことがあるんだが。この島も人を食べて生きている。そしてヴィシュヌ神である。
パイは、最初に作家にヴィシュヌは、宇宙の海の岸に眠っている。我々は彼の夢の産物である。と言ってる。そして最後に人食い島はもう二度と出会わないだろうと話す。それを考えるとあの島は本当はパイが死の淵を彷徨っている時に見た幻想だったんじゃないだろうかと思う。木の実の中にあった人間の歯は、パイを死の淵から生き返らせる信号や暗示だったかも。

カルネアデスの板
この映画を見て、カルネアデスの板を思い出した。カルネアデスの板(Plank of Carneades)一人の男が命からがら、一片の板切れにすがりついた。するとそこへもう一人、同じ板につかまろうとする者が現れた。二人がつかまれば板そのものが沈んでしまうと考えた男は、後から来た者を突き飛ばして水死させてしまった。その後助かった男は殺人罪で起訴されたが無罪とされた。
つまり自分の命が助かるためにやむおえずしたことに対して罪に問われないと言うことである。

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