Kane and Abel Jeffrey Archer ケインとアベル ジェフリー・アーチャー 1979

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Kane and Abel Jeffrey Archer ケインとアベル ジェフリー・アーチャー 1979

ケインとアベルのドラマは、日本で1986年に放送された。おそらくテレビで少し見たんだろうけど、微かな覚えしかない。最後はなんとなくうっすらと記憶がある。この題名は当然旧約聖書のカインとアベルからきている。二人の運命と同じように、この小説のケインとアベルも運命の糸で結ばれている。

それにしても、この小説は面白い。ポーランドとボストンで1906年4月18日の同じ日に生まれた二人。生まれも育ちも全く異なる二人が、次第に運命に導かれるように、出会い、強く憎しみ合い、争うようになる。非常に綿密に展開が設定されている。

二人の幼少期、とくにヴワデグ(アベル)の冒険が素晴らしい。まず生まれたときもすごいが、その後、男爵の屋敷で過ごし、ドイツ軍、そしてロシア軍の捕虜になりそしてシベリア収容所からの脱出の展開は読んでいてハラハラドキドキする。そして最後にアメリカに移民することになる。ヴワデグは、名前を父からとりアベル・ロスノフスキ男爵と名乗るようになる。

ウイリアム・ケインも父をタイタニック号の沈没で失い、義父との争い、母の突然の死が待っている。

多くの20世紀のイベントとともに話が進んで行くダイナミックさが素晴らしい。Audio bookと原書をよ見ながら進めるんだが、面白すぎてAudiobookだけで進んでしまった。幸い、言葉かなり平易で発音も奇麗でほとんど困らなかった。Jason Culpがナレーターだが、素晴らしい。聞き取りやすいし、発音も奇麗だ。

多くの20世紀のイベントはまず、1906年4月18日サンフランシスコの大地震、これは二人の誕生日である。
1912年4月14日 タイタニックの沈没では、ウイリアムの父が死ぬ。
1914年6月 サラエボ事件 1916年に第一次世界大戦の最中にドイツ帝国によってその衛星国としてのポーランド王国が建国された。これによりヴワデグは幽閉される。
1918年11月11日に第一次世界大戦が終結すると、ヴェルサイユ条約の民族自決の原則により、旧ドイツ帝国とソビエト連邦から領土が割譲され、ヴワデグはシベリアの収容所に連れて行かれる。
1929年世界恐慌、1945年ヒュルトゲンの森の最後の戦いなど。

ウイリアムの運命を決める彼の決心は、高校時代にアラン・ロイドとのゴルフをした時の会話にある。彼は、義父のヘンリー・オズボーンへの個人投資を嫌っていた。そして彼は、ケイン家の資産の投資は、ケイン家が銀行家であるため銀行との利益が相反する可能性があるため、投資した相手方にはケイン家が投資していることを明かしてはならない。父は死ぬまでそれを破らなかったし、僕もそうするつもりである。と語っているのである。

ウイリアムとアベル(ヴワデグ)の憎しみあう設定は少し無理がある様に思える。それは、二人とも悪人ではなく善人に描かれているからである。それにしてもアベルが、世界恐慌の時に親切にしてくれたルロワが自殺したことを誰かのせいにしたいのもわからないわけではないが。よく考えれば、総てを持って生まれたウイリアムに対する嫉妬が憎悪に変わったのだろう。運命はお互いに、アベルも、第二次世界大戦で知らずとウイリアムの命の恩人になっているところが、この小説が巧妙なプロットから出来ていることがよくわかる。

良い物語には必ず何か小物がでてくる。この小説では、アベルが男爵からもらった銀のブレスレットである。これは物語の最後まで重要な意味あいを持たせている。

ウイリアムとアベル(ヴワデグ)の違い。ウイリアムは、ケイン & カボットの頭取になれずがっかりするが、ケイトと結婚し子供が生まれて自分の人生で何が大切かを実感する。アベルは、ホテルの事業が成功し子供が生まれるにつれて妻のゾフィアと仲が悪くなっていく。ウイリアムの親友のマシューはホジキン病で亡くなってしまう。しかしそれがきっかけでレスター家のニューヨークの銀行の頭取になれる。ウイリアムの友人のマシューが亡くなるストーリーは本当に悲しい。親友をなくすということがどう言うことか身にしみてしまう。アベルの親友ジョージは、生涯アベルの補佐役を務める。

アベル(ヴワデグ)の生い立ちの秘密はほとんど書かれていない。確かに男爵の子供であるのは確かであるが、どうしてヴワデグの母があのようにしてヴワデグを産み落とさなくてはいけなかったかはわからないままである。

アラン・ロイドが、どうしてケイン&カボットの銀行の頭取にウイリアム・ケインを選ばずトニー・シモンズを選んだのだろう。確かに、ウイリアム・ケインがレスター銀行の頭取になるのに、力を貸したように、非常に信頼できる人柄であるのは、確かである。そしてトニー・シモンズの方がウイリアムよりも銀行を一途に考えているのは確かである。ウイリアムは、確かに若かったこともあるが、どちらかと言えば、銀行の倫理よりも、大きな正義の方を大事にするタイプである。その後第二次世界大戦に参加したように。そこがアラン・ロイドにとってウイリアムの未熟性と彼の性格を考えてトニー・シモンズを選んだのではないだろうか。ケイン&カボットの頭取の選挙後、アラン・ロイドは小説に出てこない。

もう一人気になる人は、スーザン・レスターである。マシューの妹でウイリアムが好きだったが、その後ウイリアムがレスターの銀行の頭取になってからは敵のようである。しかし彼女との会話はまったくなく、彼女がどのように考えていたのかは明らかにされていない。

この物語にはストーリーの展開として重要な病気が二つでてくる。一つは、中心中毒症から起きる子癇発作、もうひとうはホジキン病である。とくに子癇発作は非常にリアルに書かれてありその展開はドキドキするくらいだ。

この物語でてくる酒は、
第二次大戦終了後のニューヨークバロンの式典で、だされたのは、
Danzig Vodkaである。これは、根とハーブを浸漬したポーランドのウォッカである。アベルがメラニー・ルロワとの食事で出したのは、vintage Krugとprewar Mouton Rothchildでさすが、ヴィンテージのクリュッグと戦前ものムートンは当時でも高かったんだろう。そしてジョージとアベルが飲むマグナムのドンペリ。

ジェフリー・アーチャーのサイト http://www.jeffreyarcher.co.uk/

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