白痴 The idiot 1951

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白痴 The idiot 1951

監督: 黒澤明
出演: 原節子, 森雅之, 三船敏郎, 久我美子, 志村喬

原作のドストエフスキーの白痴とこの映画はほとんどストーリが同じである。
舞台が昭和20年代の札幌の置き換えられている。

ここで白痴と言われるのは、知識が著しく劣っていること、そして世間知らずのおばかさんということだが、主人公は、それにまったくの善人である。
ただ、この設定には、僕は矛盾を感じるのだが。この主人公の決断力、洞察力はとても白痴とは言えないのだが。

ここには、那須妙子を愛する赤間伝吉と亀田欽司の三角関係、そして亀田欽司に恋情をもつ那須妙子と大野綾子の三角関係が描かれている。ただ原作の問題なのか、脚本の問題なのか、物語の深刻さ、主人公の善人性が伝わってこない。確かに登場する人物にはそれなりに個性豊かなのだが。

亀田欽司は、那須妙子に自分との共通性を感じる。そして求婚する。情婦だったという悪評はあるが、心の善良性と奥底にある悲しさ,寂しさを感じたのだろうか。
那須妙子も亀田欽司に善良性と奥底の寂しさを感じて惹かれるのだが、自分が彼を不幸にする予感を感じて赤間伝吉と去る。しかし彼に対する愛情は忘れがたく、大野綾子と結びつけて亀田欽司が幸せになってくれるように願うのだが。
亀田欽司が好きになった大野綾子は、一体何の象徴だったのだろうか。普通のブルジョワ家庭にいる女性だったのか。大野綾子が試した亀田欽司の自分に対する愛情は、逆に自分に亀田欽司が那須妙子を愛していることを痛感させる結果になる。

赤間伝吉がどれほど那須妙子を愛しているのかよくわからない。気が狂うまでに愛する理由や、二人の危ない関係があまり描かれていない。赤間伝吉の家は原作通り暗くて牢獄のように映画の中で強く強調されているのだが、その意味合いが伝わってこない。結局那須妙子を愛して亀田欽司を憎しみ、亀田を殺そうとし、最後には那須妙子を殺してしまう赤間伝吉の邪悪性が際立っていない。そう言う意味では、赤間伝吉を演じている三船敏郎の良さがあまり出ていない。

原作のレフ・ニコラエヴィチ・ムイシュキンが亀田欽司、ナスターシャ・フィリポヴナ・バラシュコフ が、那須妙子、そしてパルフョン・セミョーノヴィチ・ロゴージンが赤間伝吉である。
ロゴージンが悪魔、ムイシュキンがイエス・キリストに例えられているという解釈もあるのだが。

最後に那須妙子の死体とともに赤間伝吉と亀田欽司は一夜過ごすのだが、亀田欽司は、また狂ってしまう。最後の展開は僕には解り難かった。実際に原作でも、主人公は狂人となっていたと言うことだが。もっとはっきり伝わるようにした方がよかったのだろう。
自分が本当に愛した那須妙子を殺した赤間伝吉をも許してしまう、亀田自信のやるせない悲しい気持ちが亀田を狂わしてしまったのか。


4時間25分の作品は、松竹の意向で大幅にカットされ166分となった。おそらく、ここでカットされた部分にドストエフスキーの原作にあるところ亀田と那須が結ばれそうになる所が切られているのだろう。そのため最後の展開がわからない。
これは黒澤明の予想外の展開だっただろうが、ただこの小説のテーマをもっと簡潔に扱った方がもっと良かっただろう。

札幌の町に、馬橇が出てくる。あの当時にもう雪祭りもあったのだろうか
香山睦郎を演じてる千秋実が本当に若い、でも年をとっても変わらない人だなと思う。
那須妙子を演じている原節子は、すごく線が濃厚で今まで勝手に思っていた可憐な女性というイメージを変えさせてくれた。

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