悪い奴ほどよく眠る The Bad Sleep Well 1960

  • 投稿日:
  • 更新日:
  • by
  • カテゴリ:

悪い奴ほどよく眠る The Bad Sleep Well 1960

監督: 黒澤明
出演: 三船敏郎, 加藤武, 森雅之, 志村喬, 香川京子

この時代にこれほどリアルな公団の汚職を扱った映画があるとは。
すばらしストーリー構成と、リアルな暗黒感である。

三船敏郎が演じる西幸一よりも主役は、森雅之が演じる岩淵(日本未利用土地開発公団副総裁)、志村喬が演じる守山(公団管理部長)、西村晃が演じる白井(公団契約課長)の悪人三人が主役だろう。森雅之の娘までだます悪役ぶり、志村喬の上にはへつらい下には怖い顔をする狡猾な上司、そして西村晃の弱々しい下っ端役の配役が素晴らしい。この三人の悪役ぶりが凄いし本当にリアルである。しかし映画の題名になっている本当に悪い奴は、下っ端に悪事をさせて、自分はあんぜんなところから高みの見物をしている奴(おそらく大物政治家)だろう。
西幸一は、父の復讐の為に戸籍を偽り岩淵の娘佳子と結婚する。復讐の為に結婚した幸一は、佳子を抱こうとはしない。しかし次第に幸一は、佳子のことを愛するようになる。すこしハムレットからの設定もあるようだが、この悩める西幸一が三船敏郎のイメージと違う。三船敏郎は、いつものように図太く粗野でナイーブな演技をしていて、映画に重厚感を醸してはいるのが、僕はもう少し繊細な演技の出来る人の方が好きなのだが。特に父の葬式に隠れて出席した悲痛の表情には、あまり哀愁を感じないのだ。それに、愛してもいない岩淵の娘と結婚したが次第に好きになって行く表現ももっと繊細な方がいいんだが、あのような不器用の塊のような表現もいいんだが。

この映画は、結婚式と葬式が出てくる珍しい映画だ。冒頭での結婚式。ワーグナーのオペラ、ローエングリンのブライダルコーラスそしてメンデルスゾーンの結婚行進曲はいったいいつの頃から日本で使われるようになったのだろうか。この席上に新聞記者が一杯いるのには驚いた。そして結婚式で、ケーキカットがあの時代からあったのにも驚いた。そして自殺現場を再現した大きなケーキが出てくるのにも驚きである。

自殺しようとしているところで西に助けられた公団契約課課長補佐の和田は、自分の葬式を見ることになる。この設定も痛快に面白い。和田を幽霊に見せかけるときの車のヘッドライトの使い方が面白い。

この映画は確かに戦後の日本の発展期に官僚機構と建設会社の汚職を映画いている。この汚職体質はその後もずっと続いている。この映画は、その問題性からも全く古さを感じさせないのが凄い。
最後の西と佳子の運命、そして戸籍を交換した板倉の悲痛の叫びは、ハムレットを連想させる。最後の岩渕の電話、そして黒幕に昼間なのについお休みなさいと言ってしまう。そしてタイトルの悪い奴ほどよく眠るがまた現われる演出がいいのである。
実際、この映画の後も何度も汚職の罪をかぶって自殺している人たちがいる。これは日本特有の責任の取り方、江戸時代から続いた封建的な日本社会の体質なのかもしれない。
佐藤勝の音楽はさすがである。
確かにこの映画は日本のフィルムノワールの名作と言って良いだろう。



My Rating(評価): 18/20
アクセス数:13