昭和を代表する文豪による短編小説6作品を映画化したオムニバス作品。やっぱり日本文学はいいなと思わせる短編シリーズである。このシリーズがどんどんできるといい。
見つめられる淑女たち
注文の多い料理店
原作:宮沢賢治
監督:冨永昌敬
脚本:菅野友恵
出演:石原さとみ 宮迫博之
これはすこし設定が変わっている。舞台も昭和40年代である。
石原さとみの美しさが輝いている。宮沢賢治の文学のエッセンスが出ているかは別であるが。
二人の演技のなかに、不思議な怖さと愉快さがうまく表現されていない。注文の多い店の雰囲気がイメージと違ってしまう。もう少しこの店が幻想的でそれでいてリアルに作って欲しかった。
乳房
原作: 三浦哲郎
監督: 西海謙一郎
脚本: 岨手由貴子
出演: 水崎綾女, 影山樹生弥
少年が成長して行く過程である。西沢寛次は、自分の乳房が大きくなって女になってしまうんじゃないかという心配を持っている。床屋をやっている梅村かな江が、本当の乳房を教えて彼の不安を解消してくれる。文学というのは時代背景によって性の捉え方が違うんだが、その中にも普遍的なものがあることを感じさせてくれる。
梅村かな江を演じている水崎綾女が妖艶でこの原作にあった雰囲気である。
人妻
原作: 永井荷風
監督: 熊切和嘉
脚本: 山田太郎
出演: 谷村美月 大西信満
独身の男が若い夫婦の家に部屋を間借りする。毎晩聞こえてくるのは夜の営みの声。
徐々に妄想がつよくなった男が次第に現実とも妄想ともわからない世界に入って行く。
これはなるほど、妄想が多くなってしまうのも仕方がない。人妻も誘っているのかもしれない。浅野年子を演じている谷村美月がどこか隙がある人妻役をうまく演じている。ただ色っぽさはそれほど感じないのは残念かも。逆に桑田の妄想はパラノイア的でやや異常すぎるように感じてしまうんだが。
告白する紳士たち
鮨
原作: 岡本かの子
監督: 関根光才
脚本: 大森寿美男
出演: 橋本愛、リリー・フランキー
寿司をテーマにした小説もたくさんあるが、これも面白い。寿司を握る職人をうまく高橋長英が演じている。水槽の中の金魚も風情があるし、カジカを買うともよもその時代感があっていい。湊の少年期の思い出が何とも言えず心にしみる。ともよとの何気ない会話もいい味がでている。
握った手
原作: 坂口安吾
監督: 山下敦弘
脚本: 向井康介
出演: 山田孝之 成海璃子
男として女性の手を握るきっかけは一体なんだろう。欲情なのか愛情なのか。手を握られた女性の反応もそれそれなんだろう。松夫なんというか自分勝手な恋愛感情も青春であるが、欲望に任せて握った手が汚くまた野獣のように思えてしまうことも、性に目覚めはじめた青年の気持ちを良く表しているのだろう。松夫を演じる山田孝之はやや演技に力が入り過ぎか、逆に水木由子を演じる成海璃子は眼鏡をかけている分もう少し表現を大きくしても良かったかも。
幸福の彼方
原作: 林芙美子
監督: 谷口正晃
脚本: 鎌田敏夫
出演:波瑠, 三浦貴大
原作よりもまず和服姿の絹子を演じている波瑠の美しさに見入っていた。こうした日本文学の雰囲気はやはり女優の美しさを引き立たせる。東野圭吾シリーズの小さな故意の物語にも佐伯洋子で出演していたがあの時とは印象が違いすぎる。村井信一役の三浦貴大の演技もなかなかいい。二人の静かなただずまいだけでいろいろなものを語っている。日本文学にふさわしい作品である。
どの作品も見応えがあった。どの作品も監督、スタッフ、出演者の真剣味が表れていて、本当に満足できた。これ以外にも
BUNGO-日本文学シネマ-BOXがでているので、こちらの作品も早く見たいと思っている。
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